「春華堂 新プロジェクト・スイーツバンク」 と 「ずだじ こども園・幼稚園」 の見学
昨日は午後から出身事務所の先輩 Yさん、弊社代表と共に日本建築協会東海支部主催の「浜松建物見学会」に参加してきました。
これは Yさんの大学時代の同級生 Iさんが日本建築協会東海支部の役員をされているということで、事前申し込みの際に連絡をいただき、参加させていただくことになったものです。今回の見学会は総勢31名の参加者でしたが、東海支部事務局は名古屋市にあるため、 Iさん始め、ほとんどの方は名古屋方面からの参加でした。
見学先は 「春華堂 新プロジェクト・スイーツバンク(新本社ビル・浜松いわた信用金庫森田新支店)」 と 「ずだじ こども園・幼稚園」 でした。この二つの建築は、お施主さんの要望には全力で応えるという共通点はあるものの、出来上がった建築は対極をなすものだと感じました。
まず最初に竣工間近の 「春華堂 新プロジェクト・スイーツバンク」 の見学に向かいました。
設計者 日建設計の担当者の方から設計概要についての説明があり、このプロジェクトの企画・基本案は春華堂で、設計者はそれを建築物として実現させるのに尽力されたとのことでした。
春華堂では社長指揮のもと、社を代表するお菓子、うなぎパイのキャッチフレーズ 「家族団らんの時間」 から、テーブルは記念日など節目ごとに家族が集まって囲む場であり、それを具現化することによってテーマパークのような場を設けるというコンセプトを持ちながら、 「この世の中にないものを」 という強いこだわりがあり、試行錯誤の末、企画から8年もの歳月を経て完成したプロジェクトだとのこと。
具体的には、春華堂本社の位置する浜松市中区神田町内のこの地区は、都市計画法に依り建築物の高さ制限を10mと定めており、それをテーブル面の高さに換算すると13倍のスケールになります。
このことにより椅子等の家具もすべて同じ13倍のスケールにし、その巨大家具を本物に近付けるためのこだわりは、生半可なことではなかったようです。
日建設計ではそれに応えるため、木製に見えるテーブル・椅子は同じ無垢材となる鉄骨鉄筋コンクリート造で築造し、実寸で4mもの片持ちスラブのテーブルの天板は厚さは40cmにもなるため、コンクリートスラブ内部にPC鋼材を通すポストテンション工法の採用で実現。さらに木目に見える塗装は東京ディズニーランドの施設塗装を手掛ける職人を招聘し、何度も刷毛引き塗装を繰り返し木の柾目を再現したこと。スチール製に見えるテーブルは鉄骨柱にさらに鋼製コラムをカバーし、脚元は実物家具のようにアジャスター金物を製作していることなどを説明していただきました。
また、テーブルの内側に納まる本社ビルや信金支店の建築物は鉄骨ラーメン構造で独立し、複層ガラスカーテンウォールはサッシ枠のないDPG工法であり、自動ドアの通常上部にある駆動エンジンを床下に埋込み、通常はドア上部にある無目枠をなくし、隣棟間の延焼の恐れのある部分には、複層ガラスカーテンウォールの室内側に網入りガラスをダブルスキン工法で取付け、断熱・遮熱を確保しつつ外観の平滑化を図り、周囲に溶け込むよう取り込んだことなどが紹介されました。そして内部の仕様やインテリアも徹底的なこだわりを持ち、豊富な工事費を掛け仕上げられたものだと感じました。
そして次に向かったのは 「ずだじ こども園・幼稚園」 でした。
「ずだじ」は浜松市内の町名にもなっている頭陀寺であり、古くは豊臣秀吉が少年時代に仕えていた、今川家の直臣である飯尾氏の配下・松下加兵衛の屋敷があった町でもあります。また実際にこのこども園は、頭陀寺が運営しているとのことでした。
こちらは築20年になりますので、外観は見たことがあったのですが、今回の見学会で初めて内部を見ることが出来ました。
ここでは設計者 ナウハウス 代表 鈴木さん案内のもと、説明をお聴きしながら内部を詳細に見学出来ました。
この園舎は浜松市南東部の田園地帯、東側には二級河川・芳川が流れるという立地を考慮し、遠州のからっ風に対しては、敷地周囲に園舎を配置し中庭形式にし、河川の氾濫に対しては、冠水を避ける為に中庭の地盤面を周囲より上げ、さらに園舎は高床式としたことでした。
限られた建築費の中、外部はガルバリウム鋼板、ポリカーボネイト板、コンクリート打放し、内部はシナ合板、フローリング合板に素材を限定しローコスト化を図っただけでなく、素材の交換を容易にし園舎の長寿命化も考慮されたこと。防風と採光を兼ねた壁状の園舎はそれぞれの保育室に光を注ぎ、冬期には貯えられた暖気が床下に送られ、パッシブな床暖房として機能していることなど、環境設計は自然との調和を基本に考えられているのだなと思いました。
また、この前例のない建築の施工をされたのが、地元・浜松で460年余りの歴史を持つ杉浦建築店だとお聴きし、私も以前
T邸新築工事 の際にはお世話になっていましたので、木組みや細部の納まりの緻密さに納得出来ました。
そして最後のプレゼントとして、ナウハウスの自宅兼事務所の探訪がありました。これはコロナ禍ということもあり、東海支部役員の方々と、地元浜松から参加させていただいた私たちの限定でしたが、中庭形式の自宅兼事務所は、半地下の事務所の落ち着いた空間があり、中庭に面した2階居間から向いの棟を見た風景は能舞台を思わせ、中庭の植栽にも豊かな心遣いを感じました。
また、ご自宅紹介後には、大きな掘りごたつのある茶の間で歓談もさせていただき、楽しいひと時を過ごすことが出来ました。
そして今回の見学会は日本建築協会東海支部の方々のご尽力で、現地では設計者の案内説明があり、質疑応答の出来る大変有意義な見学会となりました。改めて感謝申し上げます。
【春華堂新本社ビル.1】
外観(南東面)
木製テーブルとスツール、鋼製テーブル、付属物も13倍。木組みのほぞ小口も表現されています。
【春華堂新本社ビル.2】 外観(東面)
おなじみの春華堂手提げ袋の中には受水槽が、贈答箱の中にはキュービクル(高圧受変電設備)が入っています。下部は工事用仮囲いでまだ隠れています。
【春華堂新本社ビル.3】 入口自動ドア(駆動エンジン床埋込み式)と鋼板製の薄い庇
DPG工法の複層ガラスカーテンウォール(Low-E10+A12+HS-10)で断熱・遮熱を図っている。
【春華堂新本社ビル.4】 木製テーブルと鋼製テーブルの脚元
木製は面取り加工、鋼製はアジャスター金物。実物へのこだわりが感じられます。
また夜間のライトアップを考慮した床埋め込み照明が脚元に設置されています。
【春華堂新本社ビル.5】
エントランスホール
ここにも13倍のオブジェがあります。エッグスタンドでしょうか?卵の部分は照明かもしれません。
【春華堂新本社ビル.6】
カフェ、奥が厨房です。
【春華堂新本社ビル.7】 積層材を壁面に用いた内装、名菓「うなぎパイ」の層をモチーフにしているのでしょうか。
店舗は4月12日オープン予定とのです。
【浜松いわた信用金庫森田新支店.1】
外観(南東面)
道路側が浜松いわた信用金庫森田新支店、奥が春華堂新本社ビルです。屋上の空調屋外機はプレゼントボックスで覆われています。
【浜松いわた信用金庫森田新支店.2】 外観(北東面)
テーブル型建築の上からは新聞紙が垂れ下がっています。
手前の小テーブル型建築の中は喫煙室と非常用発電機。
【浜松いわた信用金庫森田新支店.3】 外観(西面)
丸テーブル天板が屋根となり、建築的にもダイナミックにカーテンウォールを覆っています。そしてその下には金運の象徴として知られる赤い豚の貯金箱のオブジェ、愛称「ピギー」が出迎えます。
技術的な視点では、椅子の脚や背もたれのコンクリート曲率体は、台北オペラハウスに用いられたトラスウォール工法(鉄筋パーツを三次元状に組んでメッシュ型枠で覆いコンクリートを打設する)により成型されているようです。
【浜松いわた信用金庫森田新支店.4】 コンシェルジュコーナー、奥がATMコーナー
万年筆のオブジェも13倍のようです。
【浜松いわた信用金庫森田新支店.5】 ATMコーナー
【浜松いわた信用金庫森田新支店.6】 1階相談コーナー
インテリアは欧州レトロ風銀行を模しているそうです。
【浜松いわた信用金庫森田新支店.7】 1階待合ロビー
【浜松いわた信用金庫森田新支店.8】 1階待合ロビー、奥がアニバーサリールーム
【浜松いわた信用金庫森田新支店.9】 2階待合コーナー
【浜松いわた信用金庫森田新支店.10】 2階相談ボックス
出身事務所では5年間、浜松信用金庫 10支店の新築工事 設計監理を担当していたこともあり、当時を思い出しつつ、興味深く内部の見学をさせていただきました。
【浜松いわた信用金庫東伊場支店】 こちらは浜松信用金庫東伊場支店の平成3年(1991年)新規出店時の完成予想パースです。
浜松駅の東、雄踏街道の広い交差点の角地に立地、ランドマークになるよう交差点に開く外観とし、外壁は磁器質45二丁掛タイル・御影石・アルミパネルの組合せ、開口部はバックマリオン型サッシに熱線反射ガラスを用いました。当時の完成予想パースは手書きによる水彩画でしたので、味わい深い外観パースに仕上がっていると思います。
なお、この東伊場支店は来年5月には、上記の森田新支店の店舗内店舗として移転予定とのことです。その際にはこの建物は再利用され残ってくれたらと思うのですが。
続きまして「ずだじ こども園・幼稚園」の見学です。
【ずだじ こども園・幼稚園.1】
外観(東面)
園舎の東側を流れる芳川の堤防から望む。
【ずだじ こども園・幼稚園.2】 外観(北面)
この壁状の棟が遠州のからっ風を防ぎます。
【ずだじ幼稚園.1】
中庭と園舎
北側回廊テラスから望む。正面の回廊展望テラスと両側の保育室。
【ずだじ幼稚園.2】 中庭
南側の回廊展望テラスから望む。正面の管理棟と両側の保育室。
【ずだじ幼稚園.3】 保育室
手前天井からは外壁ポリカーボネート板を透しハイサイドライトの採光。
【ずだじ幼稚園.4】
幼稚園とこども園を結ぶブリッジ
緩やかなアーチ状の橋でポリカーボネート板で覆われています。
【ずだじ こども園.1】
保育室には自然木のままの独立柱。
【ずだじ こども園.2】
廊下(直線回廊)
外壁のポリカーボネート板と内張の透光性不燃クロスのダブルスキン構造による採光。昼間は照明は要らず、夜間は光壁として中庭や周囲を照らします。また、冬期には天井のサーキュレーションファンの稼働で活動領域の温度が2℃上昇し、夏季には欄間窓の開放で天井付近の室温が3℃低下したそうです。
【ずだじ こども園.3】 廊下の床に設けられた丸窓。床下のアースチューブによる空気の流れを風車で可視化。
【ずだじ こども園.4】
廊下(曲線回廊)コンクリート打放し壁部分。
【ずだじ こども園.5】
廊下(曲線回廊)直線部から曲線部に変わる箇所の梁組み。
【ずだじ こども園.6】
中庭奥には見晴台に登るコース。
【ずだじ こども園.7】
廊下(曲線回廊)から見せる調整池。
【ずだじ こども園.8】
模型(スチレンボード製)、立体の構成がよく分かります。
【ナウハウス.1】 外観(南面)
1階はコンクリート打放し、2階はガルバリウム鋼板。
【ナウハウス.2】 外観(東面)
【ナウハウス.3】
中庭に面した2階居間から見た向いの棟。元事務室の中にはこれまで作られた建築模型の数々が並べられ、街並みを作り出しているかのようでした。
【説明資料】 日建設計さんやナウハウスさんから貴重な説明資料をいただきました。
春華堂さんからはうなぎパイ等のお土産をいただきました。